NanatoMutsuki
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Reスタートはカースト最上位から(仮)

第一部 幼少期編 第七話 アンナ

前世では僕は良くも悪くも地味な存在であった。

運動は人並み。

勉強はできる方ではあったが、高校生活という中では勉強ができることはそれほど注目には値しなかった。

容姿も不細工でもなければイケメンでもない、普通(印象の薄い)の男だった。

性格は穏やかだとか優しいだとか無難なことくらいしか言われたことがない。

第一印象としては良く思われることの方が多かったが、男らしさや個性には欠けていた。

とはいえ大きな挫折もなく、無難な人生に満足していないでもなかった。

大きな失敗さえしなければ、そこそこな暮らしはできる。

ただ、心の奥底ではクラスのリーダー的な人物や会社を引っ張るエリート社員のような人物に憧れていた。

もし次の人生というものがあるのであればキム◯クみたいなカリスマ性のある、そんな注目に値するような、求心力のある人物になりたい、そう願っていた。

しかし物心がついた時には、僕は病弱で痩せ細った男の子で、前世の性格での性格も合わさり、やはり目立つような人物にはなっていなかった。

病弱であったことは転生したことや前世の記憶との混乱の影響はあり、現在はほぼほぼ問題はなくなっている。

それでも周りの様子を窺うと、王子としてあまり期待されていない、そんなふうに感じるのである。

今回のこともそうだ。

魔法を習得して、前世の記憶を利用して、すごい能力を身につけてみんなを見返したい、すごい男になるんだと心の底では期待をしていた。

でもやっぱりダメだった。

ちょっと魔素を流し込んでもらっただけで倒れてしまった。

きっと魔法の才能などなかったのだろう。

これがよくあることであれば事前に教えてくれているだろうし、もっと慎重に練習は実施されただろう。

おそらくは人並み以下の結果になってしまったのだ。

これでまた病弱な印象が強化されてしまうだろう。

ちくしょう…

悔しいなぁ…..

ベッドに横たわって眠るシャルルに寄り添い、手を握りながらアンナは祈りを込めていた。

医者からは命には別状はないだろうと言われ、ベッドで休むことになっていたが、アンナは心配で気が気じゃなかった。

最近はようやく元気になられてきてシャルル様の明るい笑顔が増えてきたのだ。

以前は精神的に混乱することも多く、まるで自分が自分でないような、そんなおかしな発言をすることも多く、苦しむ様子が多くみられた。

元気だと思われるときでも立ちくらみや見方によっては幻覚と思われるような症状を訴えることもあり、アンナはシャルルの体調を第一に仕えていた。

10歳年下のこの王子様に仕えることが決まったのは、シャルル様が3歳の時、自分が13歳の時のことだった。

王族は3歳までは王妃が育てられ、そのあとは侍女に育児を託される。

また侍女もその時に忠誠を誓うことになる。

侍女長である母親からも命にかけても王子を守り、寄り添い、共に歩むことを命じられた。

そして王の侍女として仕える母の姿を見て育った自分にとって、同じ道を歩めることは誇りだった。

その誇りにかけてシャルル様に何があったとしても守らなければいけない、寄り添わなければいけない、共に歩まなければいけないと、そう誓いをたてたのだ。

侍女としての務めは思った以上に難しかった。

シャルル様が3歳となり、侍女に育児を任されるようになって少し経った頃から、頻繁に精神的に不安定となり発作を起こしたり、よく分からない言葉のようなものを話したり、夢と現実の境目が分からないような混乱に陥ったりするようになった。

宮廷専属の医者からも原因不明と言われ、成長により安定するのを待つしかないとそう言われていた。

そんなシャルルをアンナはとても不憫に思った。

王子として生を受け、将来は国を背負っていかなければいけない。

シャルル様には二人の姉がいるが、王位継承権は王子であるシャルル様にある。

病弱な王子であることに、側近達はすでに不安の声があがっている。

これであれば姉のどちらかが王になった方が国のためなのではないかと、派閥を作るような動きもみられる。

自分が忠誠を誓った王子にこの国の王が務まるのか、自分自身疑いがないわけではないが、自分がどのように侍女として貢献するかはシャルル様の成長に大きな影響があるといえた。

母はそのことを見越して私にシャルル様をお任せになったのだ。

それは単に母親から信頼されているということであり、その信頼に応えられるよう自分ができることは最大限貢献したい。

しかし色々な工夫や解決方法を模索してみたが意味はなかった。

アンナにできることはシャルルに寄り添い、抱きしめ安心させてあげることだけだった。

腕の中で小さく息をする、まだ幼い王子様を。

このような祈る日々がアンナの母性を開花させたのかもしれない。

祈りの甲斐もあって、徐々にではあるがシャルル様は精神的に安定し、人並みの活動を行うことができるようになった。

最近では散歩をよくするようになったし、武術にも興味を持たれるようになった。

この辺はやはり男の子だなと、クスリと微笑む場面であった。

そしてシャルル様はとても高い知性を備えていることが分かってきた。

なんと一週間ほどで大体の文字を覚え、算術を身につけてしまったのだ。

これにはアンナはとても驚かされ、王族足りうる才能の一端を垣間見た瞬間だった。

そして何より、シャルル様はとてもお優しい人格の持ち主なのだ。

私のことも決して蔑ろにしない。

いつも感謝の気持ちを伝えてくれるし、私の意思を尊重してくれるのだ。

この方に仕えることができてよかった。

今後もシャルル様のために全身全霊を尽くそう。

シャルルが倒れたのはそんな矢先のことだった。

油断したのだ。

体調が良くなって、シャルル様が活き活きとされ、武術や学問、魔法を学ぼうと頑張る姿が見ていて嬉しかったのだ。

しかしまたシャルル様が寝込むような状況になってしまった。

自分がもっと慎重に魔法の練習をするように声をかけていれば、ルーイズにシャルル様の健康面の情報を事前に入念に伝えていたならばこのような結果にはならなかったのではないか。

今まで自分が一番近くでシャルル様を見てきたのだ。

シャルル様のことは自分が一番わかっているつもりだったのに。

そんな強い自責の念にかられていたのだ。

もしこのままシャルル様が目覚めなければ、目覚めてもこれまで以上に体調が不安定になってしまっていたら、それは自分のせいだと、そう考えていた。

しかしどんなに悔やんでも時間を遡ることはできない。

できることはもはや祈ることだけである。

アンナはシャルルの手を握り締め、必死で祈っていた。

どうか無事に、どうかこれまで通り元気に目が覚めてくれることを念じて。