NanatoMutsuki
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Reスタートはカースト最上位から(仮)

第一部 幼少期編 第四話 新しい世界

「それでシャルル様。本日はどのような本を読まれますか?」

宮廷図書館には膨大な量の本が貯蔵されていて…なんてことはなく、部屋の広さこそあるものの、本棚自体はそれほど多くない小ぢんまりとした図書館であった。

元の世界の図書館のイメージがあっただけに少々がっかりだ。

印刷技術のない世界で、しかも製本する資金と知識を持っている人しか本を作れないとなると妥当なところなのだろう。

これくらいの本の量であれば自分で探せるかなとも思ったが、どの本を見ても似たような表紙ばかりのため、どんな内容なのか一見してわかりにくい。

まずはおすすめの本を選んでもらうのが良いかな。

「まずはこの世界のことを知りたいです。地理関係と歴史、あと魔法に関する本が読みたいと思っています。おすすめの本を何冊か選んでもらえると助かるのですが」

「なるほどなるほど。では本日は地理に関する本と世界地図を準備いたしましょうか」

「はい、お願いします」

ロベールはそう言うと、すぐに3冊の本をとって戻ってきた。一冊目は世界地図、二冊目はフォンテーヌ王国記、三冊目はヴィルへイム大陸記と書かれた本だった。

「ありがとうございます。二刻程したら従者が迎えに来ることになっています。それまでこの本を読ませていただきます。」

「はい、もちろんです。どの席でもご自由にお使いください」

あたりを見回して窓際の席に座ることにした。窓のガラスは分厚く作られており外の景色は見ることができない。

そして窓の外側には分厚い鉄格子が設置されていた。

窓は採光のために設置されているだけなのだろう。

景色を見ることはおろか、窓を打ち破って出入りすることも難しそうだ。

この図書館は厳重に守られている。

そして一度中に入れば開けてもらわないと出ることができない。

この部屋から出れるかどうかは外の人間に委ねられており、それは牢屋に投獄されている囚人を連想させた。

図書館を利用する人はほとんどいないとのことだが、机はもちろん図書館の隅々まで埃一つ落ちておらず綺麗に手入れが行き届いていた。

机も椅子も簡素な作りではあるが、密度が高く硬い無垢材が使われており高級そうな作りになっている。

簡素さと重みのある硬い木材の印象がこの図書館に上手く調和している。

椅子に座り、テーブルに本を並べると、まず僕は世界地図を見ることにした。

地理の把握は重要だ。

地理によって気候が違えば産業も変わり、周辺国との関係性も自然と予測することができる。

この世界にももちろん太陽があり、この惑星が太陽系に属していることは分かる。

この世界が球体であることは、どうやらこの世界の住人も分かっているが、宇宙のことや物理の仕組みなどは研究の途中であるようだ。

世界地図に関しても曖昧さがあり、現在進行中で改変され続けている状況みたいだ。

大陸や国の形に関してはこれからも変化しうるものとして、大体の感じで把握しておくくらいで良いだろう。

この本によると世界は7つの大陸に分かれている。

北の大陸ヴィルヘイム、中央の4大陸アレクサンドル、ドュマ、ペール、シエークル、南の大陸アトラス、最果ての大陸マーズ。

僕のいるフォンテーヌ王国はヴィルヘイム大陸の中にある。

ヴィルへイム大陸は東西に長く、三日月のような形の大陸だ。

フォンテーヌ王国は冬になると雪が降る。

凍えるように寒くて長い冬だ。

食事があまり美味しくないのもこの気候が関係しているのだろう。

寒い土地では作物の育ちは良くないはずだ。

寒いのは暖を取ればどうにかなるので良いのだが、食事は前世の記憶があるだけに辛い。

栄養のこともあるし早急の課題となるだろう。

農業のことは詳しくはないが、どうにか美味しい食べ物を作ることを考えなければ。

それに調理方法の模索も必要だな。

しかし一番懸念すべきは戦争だろう。

僕は王子だ。

もし戦争をして負ければ責任を負って処刑なんてことも現実的にありうる話だ。

地図を見る限り、ヴィルヘイム大陸と中央四大陸は広いの海に隔てられている。

飛行機のないこの世界ではこの海を渡って攻めてくるのは不可能に近いはずだ。

となると要注意なのはヴィルヘイム大陸内での戦争だ。

ヴィルヘイム大陸の中には大きな国が4つ存在する。

西からリネット王国、フレミネ帝国、フォンテーヌ王国、ナヴィア共和国だ。

それからヴィルヘイム大陸記を手に取り読むことにした。

ヴィルヘイム大陸は東西に細長く、4つの国に分かれ統治されているがそれは大陸南部に限ったことだ。

大陸の北部は一年を通して雪に覆われており人が住むには適していない土地だ。

どの国も一応北部も自分の国としているものの、ほとんど統治はされていない。

そのため大陸北部には少数の先住民族が住んでおり、それぞれが自由に生活しているとされる。

北部では土地は有り余っており、民族同士で争うことはほとんどないようだ。

狩猟を中心に生活が営まれ、生活物資が必要なときには南の方にやってきて買い物をする。

そのときには猟で得た肉や毛皮や骨などを売ってお金に換金しているようだ。

大陸の北の方は一年を通して雪に覆われているため、農業が行われるのは大陸の南部だけだ。

各国の先住民は大陸の南側に集まり、領地を争った。

その結果、現在の4つの国に別れることになった。

作物が育ちにくいこの大陸では、いかに暖かく、肥沃な大地を占領できるかが国の繁栄に繋がる。

戦いは長くに及び、領地獲得を各国が目論んだ。

そして最も好戦的で領地拡大を目論んだのが隣のフレミネ帝国だ。

リネット王国とフォンテーヌ王国は事あるごとに侵略戦争を仕掛けられ、徐々に疲弊していくこととなった。

それを打開するべくリネット王国とフォンテーヌ王国は手を結ぶこととなる。

相互防衛協定を結び、帝国から侵略を受けた際には協力し対抗することで帝国を牽制した。

それが功をそうし、ここ10年ほどは大きな戦争には至っていない。

戦争が行われていたのはつい最近でのことであり、一時の平和が訪れているのが現在なのである。

平和というと聞こえがよいが、決して和平が訪れたわけではない。

こう着状態の上に成り立っている平和であり、本当の意味での平和ではない。

戦争は起こらなくても、それぞれの国で軍備強化や技術開発が行われ、虎視眈々と次なる侵略の機会に備えていると思われる。

前世でも戦争が起こらない時代はなかった。

地球のどこかでは常に戦争は起きていた。

概ねは和平と呼べる、そんな世界ですら、人と人は争い続け、血は流れていたのだ。

たまたま日本で暮らしていた自分が大丈夫だっただけだ。 

そしてここは日本ではなく、10年前まで戦争が起きていた国だ。

戦争は必ず起こる。

そのために準備をしなければ僕に未来はない。

この世界での生き方を考えると、命を守ることが最優先で、それ以外のことなど二の次にしないと前世以上に辛い死に方が待っているかもしれない。

戦死も怖いが、革命や反乱も怖い。

ルイ16世がフランス革命でギロチン刑に処されたのは有名な話だ。

前世を終えて自分は不幸だったなぁと思ったが、死因以外は案外まともな人生だったのかもしれない。

戦争で20歳台くらいで死亡。

それはこの世界ではごく普通の人生なのだから。

次にフォンテーヌ王国記を手に取る。

フォンテーヌ王国は元々先住民族のマラン族が占有権を主張していた土地だった。

領地を守るため、新たな領地を獲得するため、人を増やし、鍛え上げ、集落から村となり、村から都市となり、現在の王国に至っている。

マラン族にはフォン派とイヨン派という派閥が存在した。

その派閥の長はマラン族の族長の息子二人であった。

頭脳に優れた知性的な兄フォンと、体格に優れた武闘派の弟イヨンである。

族長が一族を引っ張っていたときは、知性的なフォンと武闘派のイヨンという優秀でバランスのとれた布陣をとることができ、一族の発展に寄与した。

しかし族長が病で命を落とすと二人は対立した。

それなりの規模にまで発展していた一族は、徐々に統制が取りにくくなっていた。

そこで一族をまとめる方針が食い違ったのだ。

兄のフォンは能力に応じて地位や役割を与え、効率的に一族を運営し発展させようとした。

対して弟のイヨンは強さこそ正義と言わんばかりに強者のみを優遇する政策を推し進めようとし武力で一族をまとめあげようとした。

一族が小規模のときであればイヨンの政策も支持を受けたかもしれなかった。

しかし一族の規模はすでに大きくなりすぎており強者ばかりが優遇される政策には反発も大きかった。

女性や武力のない男性は差別されることが目に見えているからだ。

その結果、多くの支持を受けた兄のフォンが族長となり一族は更に発展。

後のフォンテーヌ王国となる。

ここまで読み終え、本を閉じた。

まだ慣れていない文字を読むのは思いの外疲れが溜まった。

「それにしても派閥か…」

どう考えてもトラブルにしかならなそうな仕組みだ。

なぜ人は群れたがるのだろう。

前世ではあまりグループに所属することはなかった。

しがらみが嫌いだったのだ。

群れれば周りには合わせて行動しないといけないし、リーダーであれば気を使って楽しめない。

そんな性格だからスクールカーストで低い地位になってしまったのだろう。

周りから見れば陰キャにしか見えないだろうし。

しがらみが嫌いだというのは言い訳で、グループに所属する協調性や集団をまとめるリーダーシップがなかったからという理由もあったかもしれない。

それは半分自覚はあるし、半分は否定したい気持ちがある。

実際は能力よりもキャラクターや性格の方が重視されているような気がするからだ。

スクールカーストの上位なんて陽キャじゃないと務まることはできない。

学校以外でもそうだ。

営業や接待、交流会。

社会に出ても結局陽キャに有利な世界になっているのだ。

陰キャの僕がどんだけ頑張ろうと、陽キャの中には入れないのだ。

これは前世で30年生きて分かったことだ。

陽キャは陽キャしか受け入れないのだ。

しかしリーダーシップに求められるのは陽キャであることではない。

それはマネージメント力と実現力だ。

細かいところに気を配り、適材適所に人材を配置し、コミュニケーションをとり、確実に成果を出していく。

そして何より、方針を示し、根拠を示し、目指す方向や目的をしっかりと伝えることが重要なのだ。

これは陽キャ陰キャは関係がない。

そして今の僕は王子だ。

陰キャであろうとそれを補う王子という肩書きがある。

どんな陽キャにも負けない肩書きが。

僕は結果を出さなければいけない。

リーダーシップは不可欠で、うまく国を導かなければ責任を負わされる、そんな立場にいる。

これは命懸けのゲームだ。

国を衰退させるような状況になれば僕は責任を取らされ殺されてしまうかもしれない。

身震いすると同時に、スクールカーストの上位を維持するのもなかなか大変だったのかなと苦々しく笑ってしまった。

今度こそ上手くやる。

自分が確実に信頼できる仲間を集めて、自分の地位を確固たるものにする。

陰キャの僕でも、誰にも下に見られないような、カースト最上位に君臨する、究極の王を目指すのだ。