NanatoMutsuki
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Reスタートはカースト最上位から(仮)

第一部 幼少期編 第十四話 国王エルヴェ

今年で47歳になった。

国王になったのは37歳のときだった。

絶え間なく戦争がある時代が続いたが、リネット王国と手を結ぶことで膠着状態となった。

それまでは元国王の父と共に、戦場を駆け回り、折を見て内政にも注力していた。

戦争は手段であって目的ではない。

これは父親から何度も聞かされたことだ。

いくら戦争に勝ったとしても国内が統治されていなければ国民は健やかに生活することはできない。

このヴィルヘルム大陸は世界の中でも北に位置しており、大陸の北側は年中雪に覆われている。

自然と人々は南側に集まり領地を争った。

その目的は農地の獲得だ。

農地がなければ農業ができず食べるものに困ってしまう。

争い事が起きるのは自然なことだった。

しかしここ十数年は領地を奪われることもなく効率的に農業が行えるようになり、現在の領地を確保できれば裕福とまではいかなくても食べるのに困るような状況ではなくなってきた。

よって領地を拡大する必要性は薄くなってきたのだが、悩みの種は西隣のフレミネ帝国が無闇に好戦的であることだった。

『強さこそ正義』を信念とする厄介な国であった。

父の最後の仕事はリネット王国と相互防衛協定を結ぶことだった。

そして父は見事それを成し遂げ、それから現在まで戦争は起きていない。

父はその仕事を最後に王位を譲り隠居、間もなく病に伏せ命を落とした。

王となってからはとにかく内政に注力してきた。

この平穏な状況は長くは続かないと儂は考えている。

これまでの歴史をみれば長く続くと考える方が難しい。

まずは食料の備蓄を増やした。

いつ飢餓がくるか分からない。 

農業に適した土地ではないだけに、不作に備えることは最優先事項である。

準備を怠り、食料不足が露呈すればフレミネ帝国はすぐに戦争を仕掛けてくるだろう。

あそこはそういう国だ。

これまでも弱点という弱点を狙われた。

強さこそ正義、何をしてでも勝つことこそが正義という国なのだ。

次は何を狙ってくるか分からない。

故に万全の準備が必要だ。

次に力を入れたのは軍備の増強だ。

10年前の戦争でも勝敗の鍵を握ったのは、やはり魔法の力だった。

魔法を使える騎士がどの程度いるのかで戦況は大きく変わった。

当時から魔法を使える騎士としてフェルナンドの存在は大きく、フォンテーヌ王国の防衛に大きく貢献した。

騎士団の強化は最大の課題であると共に、魔法の開発も急務だった。

幸いなのはどの国も魔法に関する研究は停滞している状況であったことだ。

しかし一歩先をいかれれば致命的な状況になることも考えられた。

どうにかして魔法の研究を前に進めなければと模索していたとき、巷で魔法を使う不審者がいるという情報が入ってきた。

それがルイーズだった。

彼女は魔素の使い方が卓越していた。

自分の中で自由に動かし、放出し、誰かに与えることもできる。

多くの者は魔素をなんとなくでしか感じることができない。

しかし彼女は自分の手足のように感じ動かしてみせたのだ。

彼女特有の技術により、他者の魔法の開発が飛躍的に進むことになった。

更に彼女は水を氷にしたり、火の温度を調整したりと応用的な魔法も自在にこなしてみせた。

はじめは見世物じゃないと拒否し、王族にも物怖じしない礼を欠く言動もあったが、金を渡し魔法の研究を自由にしていいと言うと、手のひらを返して大人しくなった。

どうやら借金を作り金に困っていたが、働くつもりもなく路頭に迷うところだったようだ。

いまいち信用もできんが、金で釣れるくらいの方が御しやすいだろうと思うことにした。

実際、魔法が使える騎士団員が増えて、順調に騎士団は強化された。

ルイーズに渡す給金の額を考えれば格安の支出だった。

そんなルイーズの貢献が続いてきた中、事件は起こった。

シャルルの体調が快方に向かい、いよいよ魔法を教わることになったのだが、その過程でまた寝込むことになってしまった。

ルイーズ曰くは通常の魔法の練習の手順をふんだだけとの弁。

うろたえた様子からもおそらく嘘偽りはない。

悪事を働く奴はそれをなんとも思わない異質な雰囲気や人をバカにしたような目をしているし、何より人を信じることをしない。

そういった経験からもルイーズが何かをしでかしたとは思えなかった。

となればこれはシャルル自身の体質の問題だ。

次の王は慣例に従えばシャルルだ。

しかし今のところはその素質はない。

王に求められる条件の最優先事項は健康であることだが、シャルルにはそれがない。

最近は成長に伴い少しマシになってきたかと思っていたが、やはりこれだ。

これでは安心して国を任せることもできなければ、臣下から信頼も得られない。

国の運営とは結局のところチームワークであり、王はそのトップでリーダーシップを発揮して、全体をマネジメントをしなければいけない。

そこに信頼関係は必須なのだ。

その点でシャルルは姉二人に大きく劣っている。

どうしたものかと思案していたら、目覚めたシャルルから急遽儂に進言したいことがあると申し出があった。

このようなことは初めてであった。

シャルルはこれでは特に目立たない主張のない子供であったから驚きであった。

しかし進言の内容を聞いてみて腑にも落ちた。

シャルルは優しい子であることに間違いはなかった。

きっとルイーズを助けたい一心で進言に至ったのであろう。

ルイーズは慣例に従い拘留させている。

正直罰を与えるかどうかは検討中であった。

実際シャルルは無事目を覚ましたようだし、厳罰を与えるにはルイーズは惜しい人材だ。

ここは一つシャルルを試してみることにした。

王としての才覚の片鱗をみせることができるのか、下手を打ち愚者と成り下がるのか。

ある意味では賭けであったが、結果は上出来だった。

思いの外冷静に論理立て、勝ち筋を見つけて実行した。

魔法が使えるようになったことよりも、そちらの方が収穫だった。

何人かの貴族は自分の思惑が外れて不機嫌そうだったのぉ。

息子の予期せぬ成長の兆しにニンマリし、これからのことを考える国王なのであった。