NanatoMutsuki
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第一部 幼少期編 第六話 宮廷魔法師ルイーズ

部屋に入ると、ルイーズと思われる人物は部屋の奥の方でなぜか逆立ちをしていた。

「・・・なにしてんすか」

「これはこれはシャルル様!このような体勢で申し訳ありません!」

「いや、自分の部屋で何をしようといいけどさ。でも何してるの?」

「研究ですよ、研究!今は脳に血をためてみたら魔法がどう変化するかの実験中なのです!」

「・・・・」

あんまり効果なさそうだなぁ、と思いながらとりあえず待ってみる。

いつから逆立ちをしていたか分からないが腕もプルプルして顔も真っ赤になっている。

そしてそろそろ限界を迎えそうだった。

「くっ..!! もぅ..げん..かぃ…」

と逆立ちを解除し、フラフラしながら魔法を発動した。

「今度こそ!ファイヤーボール!!」

手を前方に構え、発動する魔法の名前に一瞬ドキッとしたが、手のひらから出たのは小さな火の玉であった。

「はぁ..また失敗ですぅ…」

と膝をつき崩れ落ちる。

おいおいおい!

もし成功してどデカいファイヤーボールブチかましたらどうすんだよ!

この部屋にも本がたくさんある。

本は貴重なんだろ!?

ルイーズはそんなことは微塵も気にしていないといった様子で床に伏せてしまっている。

頭のうっ血でクラクラしてそれどころじゃないのかもしれないが。

うっ血が解消してくると、ゆっくりと上体を起こす。

その表情はとても冴えないものだ。

思ったように魔法を発動できないことが悔しくてたまらないのだろう。

もしかするとはじめから自分でもあまり期待していなかったのかもしれない。

「ねぇアンナ、この人が天才魔法師なの?」

「そう聞いていますが…」

そうするとルイーズはむくっと立ち上がり、

「天才..というのは私にとってはとても不名誉な肩書きです。この程度の魔法も実現することができないのですから」

悲しそうにうつむきながらそう語るルイーズは、僕たちの方に手を伸ばし、

「ウォーターボール」

そう詠唱すると手のひらの上に小さな水の玉が浮かびあがった。

「アイス」

次の詠唱でふわりと水蒸気が舞うと同時に水の玉が氷の玉に変化した。

「ブレイク」

最後の詠唱では氷の玉が粉砕し弾けとんだ。

アンナはそれを見てとても驚いている。

しかしルイーズは悲しそうな表情だ。

「私が天才と呼ばれているのは、この程度の魔法が使えるというそれだけのことだ」

「十分すごいと思うんですけど…」

アンナは人の手から水が、氷が生成されたことに羨望の眼差しを向けている。

前世では魔法のない世界にいた僕も十分に驚くに値することではあった。

しかし漫画やアニメで魔法を使うことが当たり前に表現されていたのを見ている僕にとっては少し物足りない光景であった。

「シャルル様はどのように思いますか?やはりがっかりされましたか?」

「驚きはしましたが…なぜこの程度とご自身で評価ほどの魔法が他の人には使えないのでしょう?ルイーズさんはさっきの魔法を他の人は使えず、ルイーズさんには使える理由を分かっているのですか?」

「・・・・ふふ。もちろんです。そして残念ですがその理由は教えるわけにはいかないです。私は魔法師である前に研究者です。自分の成果を簡単に他の人に教えるわけにはいかないのです」

・・・研究者ねぇ。

「ということはそれが分かれば、さっきの魔法を使うことはそんなに難しくないってことですよね?」

「まぁ、そうともいえますね。だけど、こんな魔法が使えたとして大した活用方法はないです。手品みたいなものです」

「・・・私が求めているのはもっと大規模な魔法です」

そう語るルイーズの瞳の奥には深い闇が刺していた。

彼女は確固たる信念のもとに行動している。

そう思わせるだけの迫力があった。

「とまぁ、研究のことはあまり喋れませんが、雇ってもらっている以上、魔法の教育の方は最大限頑張らせていただきますよー。それに研究が更に進めばさっきくらいの魔法なら情報を開示していっても良いと思っています。ただ今のところ優位に立てるものがないとこの立場を維持出来なくなってしまいますのでご容赦ください」

「それにまずは魔法を使えなければ話になりませんしね」

たしかに。

勝手に特異体質だとか自分で思い込んでいて、本当に魔法が使えるのどうか確認はできていない。

そう思うと急に不安になってきた。

これで魔法が使えなければただの病弱な王子になってしまう。

「どうやって練習するの?」

焦りながら聞いてみた。

ちなみに魔法がある世界だと分かってから念じてみたり気合いをいれてみたりしたが、何にも魔法は出現しなかった。

実はちょっとショックを受けていたシャルルであった。

転生したとしてもそこにチートな能力は備わっていなかったと分かってしまったからだ。

「まずは光因子を体内に取り込みます」

「光因子?」

「太陽から届くエネルギーのことです。それを体内で魔法のもととなる魔素に変換します」

魔素。

魔法の素となるもの。

魔法の元素か。

ゲームでいうMPみたいなもんか?

というかこの辺の情報は図書館の本の中には一切書かれていなかった。

「まずはこの光因子を取りこむ感覚を身につけることが重要です」

「その光因子なんだけど、図書館の本には一才記載がなかったのはなぜですか?」

「魔法の本を読まれたのですか?その年齢で?」

とルイーズさんから疑いの目を向けられる。

なんか失礼ことを言うなぁと思ったが、それを聞いたアンナが鼻高そうにしていたので、この世界ではそんなものかと思うことにした。

なんというかこの世界の人はあまり物事を深く考えないのだ。

原因や理由を追求しないというか。

だから分からないことを本で調べるという行動は一般的ではない。

ルイーズさんのようなタイプは案外希少なのかもしれない。

故に変わり者と見られている可能性が高い。

しかしルイーズのような論理的思考は世の中を発展させるために重要だ。

結局、世の中も戦争も政治も科学技術の優位性で勝敗が決するのだ。

「光因子という名前は私がつけました。そして魔法に関する情報は国家機密レベルで簡単に閲覧できるものではないのではないでしょうか」

宮廷図書館でも閲覧できない機密?あの厳重なセキュリティの図書館でも?

「段階的には周知されていくことにはなるでしょうが、国家間で技術開発競争が続けられているので魔法に関する情報はトップシークレットです。魔法に関する知見が1段階上がらなければ周知されていくのは難しいのではないでしょうか」

「ふーん」

まぁ、そんなものかなぁ?

「とにかく光因子の取り入れ方を練習しましょう」

「分かりました。ちなみにどれくらいの割合で魔法が使えるようになるんですか?」

「そうですね…今のところ100人のうち2〜3人といったところでしょうか」

・・・結構な難関だ。

これ魔法が使えなかったら転生した甲斐がないなぁ。

「私が光因子を取り入れて、変換せずにシャルル様の体の中に流し込みます。まずはそれを感じてみてください。その後に魔素を送り込みます。まずは2つのエネルギーを認識することが魔法を使う第一歩です。では手を前に出してください」

そういうとルーイズは僕の手の上に手を乗せる。

「ではいきますよ。」

「・・・・・」

「どうですか?何か感じますか?」

「なんとなく熱が流れ込んでくるような感覚はあります」

ルイーズの手から温かい何かが押し寄せてくる。

体の内側に熱が流れ込み、芯から温かくなるような感覚だ。

なぜだか昔おねしょをした時の感覚を思い出し、なんとも言えない気分になる。

「それが光因子です。それを魔素に変換することで魔法の燃料にすることができます」

「では今度は私が変換した魔素を流し込みますね」

そうするとルイーズの手から痺れるような蠢く異物が流れ込んでくるような感覚があり、思わず手を引っ込めてしまった。

「どうされましたか?」

「くっ!!」

「シャルル様?!」「シャルル様?!」

「ぐぅぁあぁあぁぁ!」

その流れ込んできた魔素は身体中を走り回って、体を掻き回すように僕の体を蝕み、立っていることができず倒れ込んだ。

呼吸数、脈拍増加、血圧上昇、ちょっとしたショック状態だ。

冷静に分析しようとするが対処方法が分からない。

意識が朦朧とする中、2人が慌てて駆け寄り声をかけ続けていた。

アンナはルーイズに医者を呼びにいくように指示を出したのが辛うじて聞こえた。

ぁぁ..これやばいやつだ。

現状把握も悲観もできないうちに思考がまとまらなくなる。

そして間も無く意識が遠のき、僕は完全に意識を失った。