NanatoMutsuki
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Reスタートはカースト最上位から(仮)

第一部 幼少期編 第十九話 はじめての夜遊び

王都の治安は悪くない。

とはいえそれは相対的な話であり、前世の日本に比べると劣悪な治安といえるだろう。

もちろん王城内は安全だし、王城周辺の貴族街も騎士がパトロールしたり、各貴族が用心棒を雇っているため安全なエリアといえる。

しかし全く犯罪がおきないわけではない。

そのため貴族からは、貴族街と平民街を壁で区分けするような案も根強く出されているが、国王はそれを拒否し続けている。

貴族は特権階級だが、それは平民の働きがあってこそ維持される。

それを理解している国王は平民との間に物理的・精神的な壁を作ることをなるべく避けたい狙いがあるのだそう。

一部貴族からは強い批判もあるが、成長し続けてきた王国の実績もあり、国王の意向は強く反映されている。

貴族街では表立って悪さをする奴は少ないが、一つ路地に入れば常に隙をうかがい悪事を企んでいる奴はたくさんいる、という話だ。

過去には貴族の令嬢が拉致され身代金を請求されたことが幾度とある。

そのため貴族にも護衛がついているのが一般的であり、貴族は平民街へと足を運ぶことを避けがちである。

しかし僕は違う。

なせか。

それは元一般市民(日本人)だからだ。

もうすでに王族としての生活には飽きている。

貴族街よりも平民街にこそ興味があるし、異世界ロマンを感じるのだ。

そろそろ王子の定番の無断外出をしてみたいという衝動が抑えきれなくなってきた。

昼はもちろん管理されていて無理なので、抜け出すなら夜だ。

ただ子供が夜の街を練り歩けば目立つし、なにより王子が一人でしかも夜の平民街を訪れることがバレたら大問題になる。

今日の目的は自分のリモートコントロールの練習である。

人形をリモートコントロールしてから魔素体を自分の中に入れ込み人形と同じように魔素体を通じて自分を動かしてみた。

すると魔経絡の保持と身体強化が同時に持続して行えたのある。

なるべく客観的に自分を見てイメージ通りに動かすことがポイントだ。

僕の場合、周囲の魔素から大体の情報を得ることができるし、手に取るように分かる。

視覚強化をしなくても脳も強化を行えば魔素からの情報処理を早めることができ動体視力を強化するのと同じ効果を得ることができるのだ。

何がよかったのかは分からないが、普段の生活をしつつ経絡体を保持しなければいけないと考えるよりも、魔素体で自分を動かすことに集中し俯瞰的に操作する方がはるかにイメージしやすいのである。

これは前世の子供の頃、ゲームで主人公を操作するのに慣れているからかな?

兎にも角にも課題が一つ解消された。

練習は屋内で行ったためかなり控えめに実施することとなったが、日常生活動作は全く問題ないほどになった。

そして今日はいよいよ制限せず、自由に動き回る。

ミッションは誰にも見つからないことだ。

黒いフード付きのローブを羽織り部屋の窓から出発する。

ここは2階だが…多分着地は大丈夫。

思い切って飛び降り、スムーズな着地をイメージする。

普通なら落下の衝撃に耐えられず足の骨が折れたり、体重を支えきれなかったりするだろうが、身体強化された身体はなんの問題もなく着地できた。

魔素体をリモートコントロールすることと、身体強化や視覚強化は難なく並行して行えるのだ!

すべてゲームやアニメの主人公のような動きをイメージして操作するだけでよいので、変に意識を分割しなくてよいのだ。

これに慣れたら感覚がおかしくなりそうだ。

しかし色んな安全を考えるとこのまま過ごすのが一番かもしれないなぁ。

素早く移動し、10メートルほどある塀の上にジャンプ。

これもイメージ通りに動けた。

本来なら力加減を調整する練習が必要なのだろうが、イメージ力でその辺は補われているようだ。

塀から屋根、屋根から屋根へ跳び移る。

暗いが周囲の魔素から情報を知覚できるため、どのように動いてよいかは手に取るように分かる。

「うわー楽しー!パルクールみたいだ!」

ぐんぐんと屋根を飛び移り、貴族街を抜ける。

慣れてきたためなるべく音をたてないようにも注意しつつ移動した。

「この格好でこんなことしてたら、どっかの組織の暗部みたいだな」

少し自分に酔うシャルルであった。

平民街に到着すると、ひときわ明るいエリアがあった。

近づいてみるとその一帯は歓楽街だった。

一番大きな店からはワイワイと賑やかな声が聞こえる。

店の前にもテーブルが置かれ男達が酒を酌み交わしている。

食べているのは肉系のおつまみが中心のようだ。

「んー..食事はあんまり美味しくはなさそう…」

正直、王城の食事もそれほど美味しくない。

食文化があまりすすんでいないんだよね。

異世界転生では冒険者になり酒場で情報収集というのが定番だが、今の僕はまだ子供で、一人で夜の街をウロウロしてたらすぐに怪しまれてしまうし、なにより目立つ。

何より王子という立場だしね。

こっそり夜の街を観察するくらいしかできないな。

「しかし女の人は全然見当たらないな」

男尊女卑のあるこの国では女性は夜には外出するのは一般的ではない、ということか。

「となると…あそこか」

周囲を見渡してみて歓楽街にはあるであろうあの場所を探す。

飲食店から少し離れたところに薄暗い店屋が連なった一帯があった。

そう、そこは風俗街だ。

女将が店先で客引きし、酔った男どもが小金を握りしめ店を選定している。

「んー…店の女の子は見えないなあ。避妊とかどうしてるんだろ」

やっぱりこういう店で働く女の子達は訳ありなのかな…。

前世でも何回か友人に連れられて風俗店に行ったことはあったが、どうにも好きにはなれなかった。

そしてそこに来ている客(多くはおっさん)も、なんとなく苦手だった。

イケオジなんて見たことはなく、モテなさそうな見た目もあまり気を使わない中年男性ばかりだった。

おそらく仕事だって大した地位にもない人たちなのだろう。

成功者はどちらかというとラウンジやクラブに行くからね。

風俗店に行くと自分も同じように見られているような気持ちになり、なんとなく自尊心が保てなくなるようなそんな淋しさにかられるのだ。

だから何回か付き合いで行ったくらいで、すすんで店に行くことはなかった。

その後はもう少し郊外の灯りの少ない場所を目指す。

今日の一番の目的はこの辺だ。

まずこの国の状況を実際に把握したい。

そのためには貧民街の様子をみるのが一番だと思った。

どこまで国民を管理できているのか、どこまで税を搾り取られているのか。

あちこち見回りつつ、王城や貴族街からどんどんと離れていくと灯りの少ない一帯を見つけた。

そして貧民街と確信する場所に辿り着いた。

なぜ分かったかというとまず臭いだ。

尿や体臭、衣服の生乾き臭の混ざったような臭いがツンと鼻を挿す。

そして道に人が座ったり寝ていたりする。

みんなボロボロの服でガリガリの体型だ。

この国には生活保護の仕組みはないのか。

「・・・まぁこのくらいの発展レベルではないのが普通なのか」

せめて子供たちだけでもなんとかしてあげたいな。

感染症が流行しても大変だ。

でも自分だけでは変えられないから根回ししていかないといけないな。

多くの人は目先の利益を優先する。

このような貧民に手を差し伸べても自分に利益はないと思ってしまうのだ。

しかしそれは違う。

国とは民あってこそなのだ。

それは(前世の)歴史が証明している。

政治が腐敗すればクーデターや革命、暴動がおき、国は衰退する。

国がするべきは民への投資なのだ。

その投資が滞れば国は発展しないし、目先の利益で私腹を肥やす王や貴族は没落してしまう。

今日は来てみてよかった。

自分がすべきことも少し分かった気がする。

「さて、そろそろ帰ろうかな」

ん?

周囲の魔素から急速に近づいてくる人影を感知する。

しかも背後から。

反射的に今いた場所から飛び退き、相手を視認する。

つい先程までいた場所を小刀が薙ぐ。

(あっっぶね!)

十メートル程距離をとり相手と対峙する。

相手も僕と同じ黒いローブ姿で顔や体格は分からない。

背丈は標準的な大人くらいだ。

てか誰?なんかめちゃくちゃ怪しいですけど。

人のことは言えないんだけどさ。

「・・・・・」「・・・・・」

(お互い無言。さて、どうしようか。僕も正体をバラすのはなんか嫌だし。どうにか逃げる方法を考えよう。)

「あなたは何者かしら?」

どうしようかと考えていると喋りかけられた。

女の人の声だ。

返事したくないなぁ。

背丈はバレてるし、あんまり情報を与えたくない。

いい人ならいいけど、悪い人なら王子だと分かったら余計命を狙ってくるかもしれないし。

悪い人だったらこの国ヤバイよね?

この感じだったら良い人なのかな?

この国の暗部組織とか?

そんなのあるってきいてないけど。

「答える気はないようね」

ヤバい、来るぞ。

なんか強そうだしなんとかして逃げたい。

「・・・アイスソード」

魔法で剣を生成する。

ローブの右袖から氷の刃だけでるようにしてみた。

カッコよくいかにも今からやり合いますよ的な雰囲気を演出する。

内心はめっちゃ焦ってるんですけどね!

(魔法?!)

相手が身構えたところで、二酸化炭素を含ませた大量の水蒸気を瞬間的に発生させ、周囲一帯の視界を白煙で遮る。

さらに左手を構え、相手がいた場所に氷の礫を大量に打ち込む。

ついでに氷の像を自分のいた場所をに作って一目散に逃げた。

まさかこんな形で身体強化の練習をすることになるとは。

捕まると有無を言わさず殺される可能性もあるため、ただただ追いつかれないことだけを願って、全力で一直線に王城に戻ったのだった。