NanatoMutsuki
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Reスタートはカースト最上位から(仮)

第一部 幼少期編 第十話 2人の姉

王への面会は昼過ぎに謁見の間で行われることになった。

それまで自分の部屋で待機することとなる。

本当は散歩にいきたかったのだけど、ルイーズさんが拘留されているのに呑気に散歩していたら不謹慎だろうし、何より病み上がりに元気すぎてもおかしいだろう。

またアンナに色々言われても嫌だしね。

すると部屋の扉がノックされた。

もちろん対応するのはアンナだ。

誰かな?と思っているとアンナはすぐに戻ってきて話した。

「シャルル様、第一王女ソフィア様がお見えになられました」

「姉様が?」

「いかがしましょうか?」

「・・通して下さい」

アンナが迎い入れたのは、ふわりとしたキレイな巻き髪で、優しく微笑む麗しい女性、第一王女ソフィアその人である。

僕は恭しく礼をしながら

「ソフィア姉様、ごきげんよう。この度はご心配ご迷惑を…」

「シャルル〜!!」

「ぶぅへ!」

姉ソフィアは僕を見るなり飛びついてきた。

大体予想はついていた。

だから下半身を踏ん張り、転ばないようにしていた。

転んでしまったらマウントをとられて何されるかわからない。

そう、もうお気付きかもしれないが、姉ソフィアはアレなのだ。

重度のブラコンなのだ。

ソフィアは現在13歳。

頭は良いし美人だし、何より優しい。

同級生にいたら憧れた存在だったであろう。

しかしどんな人にも欠点はある。

姉の場合はそれがブラコンのイタイ女だったというだけのこと。

「シャルル〜もう大丈夫なの〜?本当に大丈夫なの〜?すっっごく心配してたんだからねぇ」

ソフィアは頬ずりしながら愛でてくる。

本来の年齢であればこのような姉は嫌だったかもしれない。

思春期は大体ツンツンしているのが相場だ。

しかし僕は違う。前世で30歳になるまでの記憶がある。

人間はたとえ血が繋がっていたとしても、憎しみ合うことのある生き物だ。

家族に愛される。

これは自分の努力だけではどうにもならないことなのだ。

愛情の深い人が家族にいる、これほど素晴らしいことが他にあるだろうか。

「姉様、ご心配をおかけしました。ですがもう体調は問題ありません」

姉様を軽く抱きしめて報告する。

ソフィア姉様はすすり泣きしながら喜んでくれた。

もう体調は大丈夫、そう言っていた矢先に倒れてしまったからな。

家族にもまた心配をかけてしまった。

「シャルル〜ぅ」

すりすりすり…..

これ長いんだよな…今回はしばらくは離してもらえないかも…..

しかしある程度発散させないとまた同じことの繰り返しになってしまう。

身を任せて気が済むのを待つ、これが結局早く解放されるための方法なのだと知っている。

すると扉がドンっと開く。

ノックもせずにズカズカと部屋に入ってきたのは第二王女の次姉エレナだった。

「ふん!なによずいぶん元気そうじゃない!死にかけてるっていうから見にきてやったのに。時間の無駄だったようね!」

腕を組みながら仁王立ちし言い放つ。

「エレナ姉様、ご心配をおかけしました。お陰様で元気になりました」

そういうとエレナの顔が少し赤くなる。

「ふ..ふん!!別に心配だから来たわけじゃないんだからね!!」

と言ってクルッと背を向けて名残惜しそうに部屋から出ていった。

エレナは現在11歳。

赤いさらっとしたストレートヘアで少し吊り目。

口調は強めで怒りっぽいが、本当は優しい心の持ち主だ。

いわゆるツンデレ系、それも正統派だ。

本人にはその自覚がないからより可愛いく感じる。

そしてソフィアに負けず劣らずのブラコンだ。

一癖も二癖もあるが、良い家族に恵まれた。

前世では僕は一人っ子だった。

両親に不満はなかったが、いつも家は静かではしゃぐようなことはなかった。

そのためか友人とも悪ノリをして盛り上がったり、はしゃいだりするのは苦手だった。

相手に合わせて気分が動かないのだから仕方がない。

もちろん合わせようと努力したが、気分が上がっていないことはすぐにバレてしまう。

静かな奴、ノリの悪い奴、そんな印象になりがちだった。

これも1つの協調性の欠如なのだろう。

ただしこの世界では、特に王族としての生活でははしゃぐような必要性はまったくなかった。

中身がおっさんなだけに子供みたいにはしゃぐことはそもそも無理なのだが、そういったことはある意味では安心できる要素でもあった。

この国では王族として生まれると、3歳で親(王妃)の手元を完全に離れ侍女に育児が託される。

侍女は優秀な者ばかりだ。

育児は完璧で、年月を重ね徐々に腹心となっていく。

だがしかし、親の愛情とはかけがえのないものだ。

唯一無二、代わりの効かないもの。

王族として生まれ、王族として生きていくことは、幼い頃より教育されるため親と離れることの寂しさを訴えることはない。

しかしやはり普通であれば親に甘えたい年頃だ。

そんな感情を持って育てばどこかで愛情不足の影響がでる。

そして姉達の親からの愛情不足は、弟である僕を愛でることで代償された。

昔、寝込んでばっかりだった頃には姉達がよくお見舞いに来てくれ勇気付けてくれた。

とても優しく大好きな姉達だった。

二人はよく僕を取り合ってケンカをしていたし、二人で仲良くする場面はあまり見られなかったが、仲が悪いわけではなく、それぞれがそれぞれの寂しさのようなものを感じ取り慰め合っているようにも見えた。

そして僕が元気になってからは、逆に二人に愛情を注いだ。

二人の抱える寂しさに気づいてしまったからだ。

それに愛情といっても大したことではない。

「いつもありがとう」

「姉様がいてくれて良かった」

「姉様と家族でよかった」

こんな声掛けをしながら抱きしめてあげた。

少年らしくない行動であったかもしれない。

はじめはソフィアもエレナも戸惑っていた。

弟を勇気付けるような関わりを持っていたはずなのに、いつしか立場が逆転してしまっていたからだ。

しかし二人は次第に身を委ね、縋ってきたのだ。

二人はたしかに肉親の愛情を求めていた。

二人は認めないかもしれないけどね。

この二人の健やかな成長に貢献したい、そう思いながら姉ソフィアを優しく抱きしめ安心させてあげるのだった。

後でエレナも愛でてあげないとな。

誰かが見ていると素直じゃないからなぁ、と微笑むのであった。