あれからも視覚情報を強化した練習を継続しているが、結果からいうと全然上手くいっていない。
やはり視覚強化に集中しすぎると、視覚情報にばかりに囚われてしまう。
集中を解くと視覚強化も失われてしまうし、その辺は経絡体の保持が難しい理由と一緒であろう。
しかし決定的だったのは視覚を強化しつつ、経絡体を維持することはさらに困難ということだった。
片手でピアノを弾きながら、反対の手でパソコンのタイピングをするような感じとでも言おうか。
意識の分割が全然できない。
経絡体を保持するだけでも難航しているのになぁ。
不器用な自分にがっかりである。
とはいえ考え方を見直さないといけない。
基本に立ち返る必要があるだろう。
まずは経絡体を保持する。
その延長線上に視覚強化など身体部分強化があるのだ。
やはりまずは経絡体を保持する練習だな。
でもこれが何度やっても上手くいかない。
意識すればできるのだが、無意識にとなるといつの間にか魔素が霧散してしまうのだ。
この状態が数ヶ月続いている。
「あぁー、なんだよちくしょー」
こんなとき、切磋琢磨できる友人でもいれば張り合いもでるんだけどな。
そういえば僕って友達いないな…
思えば前世でも社会人になってから友達と呼べる人もほとんどいなかった。
同僚と時々飲みに行くことはあった。
でもそれは友達というよりは職場の付き合いだ。
なんか急に虚しくなってきた。
ふと、思いつきで目の前の空間に人の形に魔素を集めてみた。
「魔素人形のできあがりだな」
やってみてさらに虚しくなる。
しかし意外と難しい。
人形といってもミシュ◯ンマンかマシュ◯ロマン
程度の出来だ。
ここではっと思いつく。
もしこの能力で自分そっくりの魔素人形を作れれば夜くらいだったら城を抜け出せるんじゃね?
ふふふ
いいことを思いついてしまった。
そこからはひたすら鏡を見ながら自分の人形を試行錯誤した。
そして意外と時間がかからず自分そっくりの魔素人形をつくることに成功した。
鏡で見る自分と実際の自分が実は少し違うということは知っている。
この場合、そっくりなのは鏡の中の自分だ。
この世界にはまだスマホはもちろん写真もないから自分の本当の姿を見ることはできない。
見る人が見たら僕じゃないってすぐわかるだろうけど、自分の部屋で寝ているように見せかけるだけてあれば気づかれないだろう。
絵心には不安があったため心配したが、魔法に求められるのはイメージ力なので問題なかった。
しかし、問題はここからだった。
魔素人形はあくまで魔素の塊。
実体がなく、見えているのはおそらく僕だけ。
ゆえにここからは魔素を物質に変化させていく必要がある。
例えばファイヤーボールであれば魔素を可燃物と酸素と熱エネルギーに変換させ着火させる魔法だ。
魔素を物質化することはできる。
でも人間となると簡単に創造して失敗したら悲惨なことになりそうだ。
そもそも生き物を創造するのは不可能なのでは?
仮に成功してもその後どうする?
処理にも困ってしまうし、自分の人形を処理するのもなんか嫌だ。
分解魔法も身につけるべきか?
しかしさすがにすべての物質やその構造体などの知識はない。
うーむ。
試しに髪の毛を創造しようと試みてみたが上手くいかなかった。
原因は髪の毛が何でできているかをイメージしきれていないからだろう。
たんぱく質って分かってるだけじゃダメってことね。
たしかにたんぱく質ってなんだろう。
創造魔法、難しいなぁ。
これができれば薄毛問題は根本的な解決ができたであろうに。
前世でも現世でも(※今のところ)薄毛には困らなかった。
そこだけは親に感謝しなければいけない。
オシャレに髪型は非常に重要なのである。
なんならカッコよさの7割は髪型で決まるといっても過言ではない。
髪の毛にこだわるシャルルは、薄毛だけには絶対になりたくないのであった。
人形作ることは難しいとして、動かすことはできるかな?
部屋にあったクマの人形の形に合わせて魔素体を作り、人形の中に入れてみる。
「さぁ!動け!」
クマの人形はぴょこっと頭を上げ、立ち上がった。
「おー!イメージ通りに動くぞ!!」
ちょっと楽しいかも笑
「よし、テーブルの上にジャンプだ!」
クマのぬいぐるみは大きくジャンプして難なくテーブルの上に着地する。
よしよし。
ん?
あれ?
今人形の身長の4〜5倍くらいジャンプしたぞ。
人形で軽いとはいえジャンプ力ありすぎじゃね?
ためにし天井に届くようにジャンプさせてみると、やはり難なく実施できた。
次に魔素体の魔素濃度を極限まで薄くすると、人形が立っていられなくなった。
すげー、なるほど。
魔素の濃度によって付加される能力が変わるのか。
死体を操れば俺はネクロマンサーになれるな笑
ん?
「・・・・・」
ここで1つの可能性にたどり着く。
これって人間も操れる?