王との謁見を無事終え、早速翌日から剣術の訓練は始まった。
とはいっても僕は元々虚弱体質な生活を送っていたこともあり、体は細く、体力もない子供である。
まずは走り込みと素振りから始まるのだが…
「ぜぃぜぃ…も..もぅだめ…..」
わずか15分ほどのランニングで限界を迎えるのだった。
子供の体だから多少無理をしても大丈夫だと高をくくっていたが、下手したら前世の大人の体より体力ないししんどいぞこれ。
魔法で疲労をとることはできるんだけどなぁ。
でもそれをしてしまうと心肺機能があがらないだろし、そもそも魔法を使って体を治すのって健康上大丈夫なのか?
時間を遡るような元に戻る現象であれば大丈夫だろうけど、治癒過程を促進しているということだと、幼少期の僕にとっては過成長のリスクとか細胞分裂の限界が早く来て老化を早めたりとかするんじゃなかろうか。
戦闘中や逃走中には疲労回復魔法も有効だろうけど、トレーニングは頑張るしかないなぁ。
「シャルル様、いきなり飛ばしすぎですよ。少しずつ体に負荷をかけていなかいと、体の負担になります。休んだらとれるくらいの疲労にしないと駄目ですよ」
訓練に付き合ってくれるフェルナンドがアドバイスしてくれる。
でも止めないところを見ると僕の体の心配というより、どちらかというとアンナから苦情を言われないかを心配しているのかな?
本格的にトレーニングを開始することをアンナに伝えたときは鬼のように起こり出したからな…
やっぱり女性を怒らすと怖い。
まぁ今回は王の命令ということで渋々納得してくれた。
でも心配をかけないように配慮しないとな、と思うのは僕だけじゃないはずだ。
フェルナンドもアンナから不興を買うのは嫌だろうしね。
「思ってた..ハァハァ…以上に..体力が…ハァハァ…ないんだね…..ハァハァハァ」
心肺への負担も考慮しないとダメだな。
まず走り込むより歩くのも織り交ぜて長く活動できるようにしないとな。
こりゃ時間がかかりそうだ。
「シャルル様は今まで運動らしい運動もしなければ子供らしく走り回ることもなかったですからね。でもまだ若いから巻き返しはできますよ」
「そうかな?僕もうすぐ7歳だよ?運動や剣術に才能のある子供だったらこの年齢には頭角をあらわしているでしょ。それに追いつくのは難しいんじゃない?」
「そんなことはありません..と、通常の7歳くらいの子供には夢を持たせるのが普通かもしれませんが、シャルル様にはそんなことを言っても上辺の言葉と見抜かれそうなので否定はできませんね」
「やっぱりねー」
「では頑張るのをやめますか?」
「やめないよ。別に運動や剣術で一番になれなくてもいいし。でも自分の限界や現在地を把握しておくのは大事だからね」
「流石でございます。特にシャルル様には魔法の可能性もありますからね。魔法と組み合わせることで体力差をひっくり返すことも可能かもしれません」
「そのためには体力があるのとないのとでは全然違うもんね?」
「そうです。我々は魔法の力によって筋力を増強させます。しかしそれは同時に筋肉に対する負荷も高くなってしまいます。筋肉が耐えられないほどの強化魔法をかけてしまうと大怪我に繋がってしまいます」
「なるほどね」
筋力を強化する..かぁ。
筋繊維とか靭帯とか、構造物自体も強化すれば耐えられるんじゃないのかなぁ?と思う僕であったのだが、筋肉の繊維がどういった構造なのか、筋肉や靭帯がどのように走行しているのか分からないと実際は難しいのかもしれないね。
その点、僕は前世での解剖学や生理学、運動学の知識もある。
身体強化には活きそうだね。
その後も少し走ること歩くのを繰り返してから素振りを100回してトレーニングを終えた。
たったこれだけの訓練でこの疲労か。
もう手がプルプル、足がガクガクして力が入らない。
これが毎日続くのかぁ…
耐えられるかなと不安になる。
休憩と昼食をとって午後からは魔法の練習だ。
ルイーズは謁見後すぐに開放され、僕にしっかりと魔法を教えるように言い渡されたと聞いた。
倒れてから会うのはこれがはじめてである。
謝らないとなぁーと思いなからルイーズの部屋をノックする。
「は!はひぃ!」
・・・・変な返事が返ってきた。
そろっとドアを開けて中を覗くとルイーズが土下座して待ち構えていた。
「・・・あの?ルイーズさん?」
「こ、こ、このたびは誠に申し訳ありませんでした!」
「いや、別に…」
「その上恩赦までいただき、感謝してもしきれません!この御恩は命をかけて返させていただきます!」
「いや…命かけなくていいから」
「牢屋にいるときに兵士の方からは死刑は間違いないと聞いていました。はじめは絶望しましたがそれが自分に科せられた罪なのだと思って、ちゃんと償わないといけないって思って、7日経って牢屋から出ろって言われて、いよいよ死刑になるんだって思って、それで、それで、、、うぅゔぅ….」
これまでのことを話しながらルイーズは泣き出してしまった。
まぁたしかにこれが昨日までのことだから、まだ気持ちが追いつかないのかもしれない。
「まぁとにかく、ルイーズさんは何も悪いことはしていないですし、もう罪に問われることはないですから安心してください」
「ひっく、はぃ…。ありがとうございます…..」
「ルイーズさんには魔法を教えてもらわないといけないですしね。これからもよろしくお願いします」
「ところで魔法の練習ってこれからどんな感じで進めていくんですか?」
「ん…ええ、とりあえずは魔素を認識する練習と体内で操作する練習ですね。これが魔法を使う上での基礎であり奥義であるとも言える..と思っています。魔素は魔法の素になるものです。使用したい魔法に合わせて、その部位に必要な魔素を集めて移動し、思い描いた規模の魔法を発動させます」
「前、僕の体に送り込んでくれたやつですね」
「そうです。このような操作ができる魔法師はごくわずかです。王国の騎士達は魔法を使い身体を強化しますが、多くの騎士は細かな操作はしていません。体内にある魔素を一気に消費し身体全体を強化します。そのため短時間しか魔法は持続しません」
「ちなみにフェルナンドは?」
「詳しくは分かりませんが、瞬間的に魔法を使う、部分的に身体を強化する、くらいのことはできるんじゃないでしょうか?」
「なるほど。さすが団長ですね。で、ルイーズさんもできるの?」
「・・・それは秘密です」
と目をそらしながら返答するルイーズ。
「ふーん」
その返答じゃできるって言ってるようなもんなんだけどね。
というかそれができるなら今回のことも逃げようと思えば逃げれたんじゃないかなぁ?
最終的にはやってたかもしれないな(笑)
でも魔素を送り込むくらいは僕でもできそう。
「ルイーズさん、手を貸してください」
「?。はい?」
差し出された手に、僕の手を乗せてごく少量の薄い魔素を送り込んでみる。
僕みたいに倒れられたら困るからあくまでごく少量で薄い魔素。
魔素が入りますよ、とドアをノックするように手のひらから少しずつ魔素を押し出すように流し込んだ。
「えっ?なんでできるんですか?!」
ルイーズが驚きの表情をみせる。
「んーなんとなくできちゃった」
てへっと戯けて誤魔化す。
「えー…」
ルイーズは急にしゅんとした顔になった。
「これできる人かなり少ないんですよ…。しかも教えてもいないのに…。ファイヤーボールも使えるって聞きましたけど本当のようですね…」
「もう教えることはないとか言わないですよね?」
「言わないですが..これができてしまうとなると教えれることはあまり多くはないかもしれません」
「もしかして教えたくなかったこと?」
「シャルル様は命の恩人ですし、特別に教えますが、できればそのことは内密にお願いしたいです」
「わかりました。ルイーズさんの研究の成果を他の人に漏らしたりしませんよ」
まぁ僕は自分が良ければそれでいいしね。
「まず、魔素はどのように体の中に存在すると思いますか?」
「ん?どのようにと言われても..体の中にふわふわと漂う感じ??」
「ふわふわと..ですか…」
「なに?ダメなの??」
「少し魔素を流させてもらってもよいでしょうか?」
「ん?いいけど?」
ルイーズは僕の手に触れようとして、少し思い留まる。
「もう大丈夫だからね?」
「本当ですか?」
「ホントホント!大丈夫だから信じて!父上からも許可出てますしね」
「もぅ!信じますからね!」
そう言い、なげやりに僕の手を掴み魔素を流しこんでくる。
そしてその魔素を僕の体の中を探るように行き渡らせる。
かなり集中を要するようで、目をつむり眉間に皺を寄せながら魔素からの感覚情報に集中している。
5分くらい経ったところでルイーズは手を離した。
「やはりですか」
「何がですか?」
「シャルル様は浸潤型ですね」
・・・はて?