あれから何度か図書館に通った。
次の目的は魔法について調べることだった。
魔法とは何か、どのような原理で成り立っているのか、それを調べるためだ。
ロベールさんにお願いして数冊の本を一通り読んでみた。
結論からいうと、魔法のことは解明があまりすすんおらず詳しなことは分からなかった。
分かっていることは日中は魔法の出力が上がり、夜は下がること。
イメージや思いを具現化する現象であること。
このことからも魔法のエネルギーは太陽がもたらしていることがほぼ確実だと言われている。
その何らかのエネルギーを体内で魔素(魔法の素となるもの)に変換し魔法を発動する。
魔法が使えない人は魔素への変換が上手く行えていないか、イメージ力が乏しく魔法を具現化できないことが要因ではないかと言われている。
実際、魔法を使える人は少数である。
魔法という現象が発見されたのは今から50年程前。
魔法の始祖と呼ばれるある研究者がいた。
なぜ物は地面に落ちるのか、なぜ火は燃えるのか。
未だ仮説でしか解明されていない物理現象に、はじめて理由を見出そうとした人物である。
世界の現象の解明のため日々研究を続けた彼はある時、感染症により一週間ほど寝込むことになる。
命に関わるほどではないにしても辛く長い一週間だった。
そんなとき、心配し寄り添ってくれた妻が握ってくれた手からなんとも言えない癒やしを感じた。
病気が治るわけではないし、熱が下がるわけではない。
しかし確かに楽になる、癒やされる感覚に間違いはなかった。
そこで彼は人の手には何か発見されていない未知なる能力が秘められているのではないかという仮説をたてた。
弟子に修行をさせると数人に手が光る、痛みを癒やすことができるといったことがおきた。
これが魔法の開花である。
次に火をおこすことを試みた。
そしてわずかだが発火現象を起こすことができた。
そして魔法を使うことができる者が、一人また一人と増えていった。
この画期的な発見により魔法の研究は一気に加速する…と思われたが、魔法の研究は思うようには進展しなかった。
魔法を発現できる人が限られていたこともあったが、最大の要因は魔法の出力の乏しさだ。
火を出すにしても小さな火しか出せない。
身体強化をして力を出すにしても地力の2倍がいいところ。
魔法が発見されても生活自体はあまり変化しなかった。
それから50年。
未だに大きな進化をとげることのないまま、魔法の進歩は停滞している。
しかしどの国も魔法の開発は継続されている。
なぜなら他国より先に魔法の開発がすすめば他国を圧倒できる戦力を手に入れることになるからだ。
フォンテーヌ王国もそれに漏れず、騎士団では身体強化の可能性を探っているし、ルイーズさんのような魔法の知識が深い者を雇って、投資し、研究させているのだ。
しかし魔法の本当の力はこれくらいのものではない。
僕はそう確信している。
僕には秘密がある。
僕は生まれながらにして、あるものが見える。
それはまだなにか分からないが、他の人には見えないものようだ。
そのあるものとは、空気中を漂うキラキラした何かだ。
以前アンナに「このキラキラしたのは何?」と聞いたら、「立ちくらみをすると少しの間キラキラしたものが見えたり、目がチカチカしますが、すぐに治まりますので、大丈夫ですよ」と言われた。
立ちくらみか何かだと思われたのだろう。
しかしそんなものではない。
仮にも僕は元医者だ。
立ちくらみがどういう現象なのかは知っているし、立ちくらみしているかどうかくらいは自分でわかる。
直感ではあるが、このキラキラしたものは魔法に関係する何かだと確信している。
おそらくだが、この世界の自分以外の住人には見えていないもののようだ。
まずはこれを解明して、自分だけの能力を身につける。
しかしそれを悟られてはいけない。
敵を増やさず目立ち過ぎずにいきたいところだ。
王子といえど特異体質なんてことが分かれば何をされるか分かったものではない。
それに僕はあまり目立たない方が良いだろう。
目立つほどの人物ではないのだ、僕は。
僕が目立ってもいい時、それはなにか成果を出したときだ。
成果を出さずに目立つことは、見下されることに直結してしまうであろう。
結局、僕は生まれ変わっても陰キャなようだ。
でも生き方は変えられない。
陰キャでもカースト最上位でやっていけることを証明するんだ。
今日は宮廷魔法師のルイーズさんに合うことになっている。
アンナに引き連れられ、ルイーズさんの研究室兼自室の前まで来た。
ノックをしてみるが、待てども待てども返事がない。
「ルイーズさん、シャルル様が来られました!ルイーズさん!」
アンナがノックしながら大声で呼びかけるがやはり返事はない。
事前情報では魔法オタク、要するに変人とのことだ。
「アンナ、入ってみようか」
思い切って入ってみることにした。
もう一度ノックをしてドアを開けてみると、紙束や本が乱雑に山盛りにされていた。
何となくは予想はしていたが研究者っぽい部屋だ。
それで当の本人はというと、部屋奥でなぜか逆立ちをしていた。