「シャルル様は浸潤型ですね」
・・・はて?
「なんの話ですか?」
「いいですかシャルル様。ここからの話は私の研究成果です。魔法書にはまだ載っていない内容になりますし、私独自の解釈や私が考えた名称になります。事実もありますし、仮説も含まれてきます。その上で話を聞いていただければと思います」
「はい」
なんかドキドキワクワクしてきた。
これこそ異世界って感じ。
「まず魔素は魔経絡と私が呼んでいる体内における魔素の通り道を中心に集まります。その大元は脳です。そして脳から派生する魔経絡の形には個人差があります。これは私が魔法を教える際にたくさんの人に魔素を流し込み得られた知見であり、事実です。ただお分かりかと思いますが魔経絡は物理的に存在しているわけではありません。目に見えないというだけでもありません。魔素を通じてのみ知覚が可能なものです」
「なるほど。じゃあ魔経絡には型が何種類かあるんだ」
「はい。私が把握しているのは5種類です」
①不定型
脳から魔経絡の派生が不十分で経絡が未熟な状態で、ほとんどの場合、魔法の適正がない型。
②中枢型
脳を中心に魔経絡が派生する型。秀才な人に多い。魔法の適正は低いが無自覚に軽微な魔法を使い脳を強化していると分析している。
③大経絡型
騎士達に多い型。脳から脊髄に沿い下降、四肢に分岐していく。太くシンプルな経絡であることが特徴。
④開放型
脳から派生した魔経絡が、四肢の末梢まで伸び、抹消付近で膨らむ。これをルイーズは魔丘と呼んでいる。
⑤浸潤型
魔経絡が体の中に浸潤している型。最も稀な型であり特徴も良く分かっていない。
「ではさて、問題です。私は何型でしょうか?調べてみてください。」
「魔素を流して調べるってこと?」
「そうです」
ちょっと待ってくださいね。
ふぅ…..
別に緊張しているわけではない。
これまでのやり取りで僕にも新たに分かったことがある。
まずルイーズの魔素だがとても薄い。
そしてくすんだ橙色のような色だ。
魔素には色がある。
実際に魔素に色があるわけではないだろうが、イメージでいうとそんな感じだ。
周囲からの吸収した魔素は青色に近い。
魔素を少しだけ吸収して濃度を低く変換してみる。
そうするとルイーズの同じような色味の魔素になった。
よし、これを流しこんでみよう。
ルイーズの手に僕の手を乗せて魔素を流し込む。
薄くルイーズの体全体に魔素を行き渡らせると魔経絡の形が見えてきた。
ルイーズの手足、特に手の付近に魔丘が存在した。
「うん、開放型だね」
と答えると、ルイーズはジト目で僕の方をじーっと見て、ため息をついた。
「はぁ、簡単にやってのけますね。私はこの作業に結構神経を使います。かなり集中しないと魔素からの情報を得られないんです。シャルル様は魔素の感度が高いんですね」
「そうかもしれないですね」
うんまぁそうなんだけど、あっさりバレちゃったな。
「じゃあさ、ルイーズの研究の成果は誰にも言わないからさ、僕の魔法に関することも内緒にしてくれる?魔法に関する才能は魔法師の中では並ということにしてほしいんだ」
「そうなんですか?才能があると周囲に認知させた方が求心力も高まりそうですが…。いえ、出過ぎた申し出でした。シャルル様の言う通りにしましょう」
「それで?練習は何をするの?」
「まず魔素の経絡体を作ります」
「経絡体?」
「光因子から変換した魔素は皮膚表面付近にある経絡口から吸収され、魔経絡の中に貯まります。しかしそのままにすると徐々に霧散していきます。霧散しないようにしても魔経絡の中を流動してしまいます。このように魔素が不安定な状況では魔法を適切に使うことはできません。そのため魔素を無意識下でもコントロールできるようになる必要があります」
「なるほど」
「私は魔経絡の幹となる部分に常に魔素を固定するようにしています。おおよそ体の中にもう一つの体を埋め込むようなイメージなので経絡体と呼んでいます。例えばですが、この能力が身につくことで、身体強化においては数倍の効果を得ることができるようになります。まずは日常生活において常に経絡体を保持することを試みて下さい」
「ふーん。ちょっとやってみようかな」
魔素を吸収し、自分の体の中にもう一つ小さな体を作るように調整していく。
すると比較的簡単に経絡体を作ることができた。
なんだ割と簡単じゃん。
「ところでシャルル様。アンナさんは剣術や魔法の訓練には納得されているのですか?」
「・・・いや、それ聞かないで?納得してるはずないでしょ?王の命令だから止めはしないけど、めちゃくちゃ怖かったんだから」
「やっぱりそうですよね…。だから今日は同席されていないんですか?」
「怖くて集中できないから送り迎えだけにしてもらったんだ…」
「シャルル様も大変ですね…」
と言いながらルイーズがニヤッと笑う。
「経絡体、大丈夫ですか?」
「え?あ!」
経絡体は霧散しかけていた。
「最初は意識し続けないと保持できないと思います。まずは動いていても、喋っていても、最終的には寝ていても保持できるようになって下さいね?」
「ルイーズさんはもちろんできるんですよね?」
「もちろんです。寝ているときも含めて常に保持していますよ」
・・・もしかしてフェルナンドより強かったりして。
こうして僕の訓練生活は始まったのだ。