雪を踏み割る音が、やけに大きく聞こえた。
剣は重くない。
腕も、息も、問題ない。
――問題なのは、思い出だ。
炎。
泣き声。
崩れる屋敷。
「……くそ」
吐き捨てるように声が漏れる。
あの日、俺は選んだ。
家族ではなく、王子を。
正しかったかどうかなんて、考えない。
考えたところで、あの結果は消えない。
魔物が現れる。
牙を剥き、唸る。
「邪魔だ」
それだけだ。
踏み込み、斬る。
血が飛ぶ。
倒れる。
生きるためじゃない。
守るためでもない。
進む邪魔だから、斬る。
王子と離れた瞬間のことを思い出す。
白い吹雪の中、姿が消えた。
探した。
呼んだ。
だが、返事はなかった。
怒りが、腹の底で冷えている。
誰に向けたものかも、もう分からない。
次の魔物。
さらに次。
剣は迷わない。
角度も、距離も、完璧だ。
そのたび、何かが削れる。
痛みも、恐怖も、ためらいも。
残るのは、動きだけ。
――斬る。
――避ける。
――刺す。
巨大な影が、前に立ちはだかった。
雪山の主と呼ばれる魔物。
一撃で人を潰す腕。
「……」
言葉は要らない。
突進。
衝撃。
骨が軋む。
それでも、前に出る。
懐に入り、刃を叩き込む。
何度も。
何度も。
最後に、魔物が崩れ落ちた。
静寂。
風の音だけ。
剣を下ろす。
息は乱れていない。
「……」
勝った。
だが、何も湧かない。
誇りも、安堵も、喜びも。
ただ、空っぽだ。
雪の上に立ち尽くし、
俺は剣についた血を見下ろしていた。

