NanatoMutsuki
welcome to my room
Reスタートはカースト最上位から(仮)

第3話 削ぎ落とされるもの

――視界が、白く弾けた。

音も、重さも、一気に遠のく。
次に感じたのは、冷たさだった。

「……レオン?」

声が、雪に吸われる。
返事はない。

「フィア……?」

喉が、ひりついた。
立ち上がろうとして、足がもつれる。

周囲は、どこを見ても同じ白。
風が吹くたび、地面と空の境が消える。

(……一人だ)

理解した瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。
だが、すぐにそれすら薄れていく。

寒い。
腹が、何かを訴えている。
でも、その「何か」が、言葉にならない。

歩く。
止まれば終わる気がして、ただ足を前に出す。

どれくらい経ったのか分からない。
時間は、感覚と一緒に削れていく。

ふと、足元の雪が弾けた。

「――っ!」

反射的に跳ね退く。
白の中から、影が躍り出た。

牙。
黒い体毛。
魔物だと理解するより早く、体が動いた。

剣を抜く。
重い。
腕が、痺れている。

突進。
かわしきれず、肩が裂けた。

痛み。
でも、それも長く続かない。

斬る。
もう一度、斬る。

倒れた魔物は、ぴくりと動かなくなった。

荒い息。
視界が、狭い。

(……勝った?)

確認する前に、膝が落ちた。

腹が、強く鳴る。
それで、初めて気づいた。

(……食える)

魔物を見る。
血と獣の匂い。

「……無理だ」

口に出した声は、震えていた。
王子だ。
人の上に立つ者だ。

でも――

寒さが、骨に染みる。
視界の端が、暗くなる。

考える力が、剥がれていく。

(生きる)

それだけが、残った。

剣で、肉を裂く。
指が、言うことをきかない。

噛みちぎる。
生温かい。

吐き気。
でも、飲み込む。

何度か、えずいて。
それでも、口を動かす。

名前も、誇りも、どうでもよくなる。
「王子」という言葉が、遠くで凍りついた。

ただ、生きる。

立ち上がる。
足は重いが、動く。

また、影が動く。
別の魔物だ。

剣を構える。
迷いはない。

雪が舞う中、俺は踏み出した。