――視界が、白く弾けた。
音も、重さも、一気に遠のく。
次に感じたのは、冷たさだった。
「……レオン?」
声が、雪に吸われる。
返事はない。
「フィア……?」
喉が、ひりついた。
立ち上がろうとして、足がもつれる。
周囲は、どこを見ても同じ白。
風が吹くたび、地面と空の境が消える。
(……一人だ)
理解した瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。
だが、すぐにそれすら薄れていく。
寒い。
腹が、何かを訴えている。
でも、その「何か」が、言葉にならない。
歩く。
止まれば終わる気がして、ただ足を前に出す。
どれくらい経ったのか分からない。
時間は、感覚と一緒に削れていく。
ふと、足元の雪が弾けた。
「――っ!」
反射的に跳ね退く。
白の中から、影が躍り出た。
牙。
黒い体毛。
魔物だと理解するより早く、体が動いた。
剣を抜く。
重い。
腕が、痺れている。
突進。
かわしきれず、肩が裂けた。
痛み。
でも、それも長く続かない。
斬る。
もう一度、斬る。
倒れた魔物は、ぴくりと動かなくなった。
荒い息。
視界が、狭い。
(……勝った?)
確認する前に、膝が落ちた。
腹が、強く鳴る。
それで、初めて気づいた。
(……食える)
魔物を見る。
血と獣の匂い。
「……無理だ」
口に出した声は、震えていた。
王子だ。
人の上に立つ者だ。
でも――
寒さが、骨に染みる。
視界の端が、暗くなる。
考える力が、剥がれていく。
(生きる)
それだけが、残った。
剣で、肉を裂く。
指が、言うことをきかない。
噛みちぎる。
生温かい。
吐き気。
でも、飲み込む。
何度か、えずいて。
それでも、口を動かす。
名前も、誇りも、どうでもよくなる。
「王子」という言葉が、遠くで凍りついた。
ただ、生きる。
立ち上がる。
足は重いが、動く。
また、影が動く。
別の魔物だ。
剣を構える。
迷いはない。
雪が舞う中、俺は踏み出した。

