呪物の調査に関してはすぐに許可がおりた。
また謁見が必要になるかとも思われたが、王(父)からあっさりと許可された。
「シャルルとルイーズであればよい」とのこと。
正直、呪いとかお化けとかそういった類いのものは前世から信じていない。
信じていないというか、あるのであれば見つかってほしいと思う方であった。
ないもの(ないであろうもの)をいちいち不安には思えないんだよな。
しかし今回の呪物に関しては少なくとも存在している物なのだから、少し怖さもあるが、好奇心の方が勝っている状況であった。
呪物は王城の地下に保管されていた。
厳重..では意外となかった。
まぁ国宝でもなければ、国に大きな影響を及ぼすほどのものでもないし、何より普通は近づきたくもないだろうから。
「シャルルさまぁ、やめましょうよぉ。あえて呪われているものに近づかなくてもいいじゃないですかぁ」
ちなみにアンナも一緒である。
というか基本的にいつも一緒だからね。
普通は呪物なんて聞いたらこんは反応なんだろうな。
「アンナは保管庫の中まで入らなくてもいいよ。別に危ない場所でもないしさ」
「シャルル様がもし呪われたらどうするんですか!」
「アンナ。アンナは呪い子以外で呪われた人を見たことある?」
「‥ないですけど、それは悲惨な目にあってしまうからじゃないですか?」
「要するに見たことも会ったこともないんだよね?噂で怖がっているだけだよね?」
「・・・・・はぃ」
「難しいことかもしれないけど、事実ではないことを怖がっても仕方ないよ」
「はぁ..なぜシャルル様はこんなに冷静なのでしょう。昔の小さくて可愛く抱きついてきたシャルル様はどこへいかれてしまったのでしょうか。ぐすん」
「今もまだそんなに大きくはなっていないけどね」
呪いの研究のために呪物を見に行くことは事前にアンナに伝えてあったが、それを聞いた途端非常に怖がった。
この世界の人は呪いを信じている。
小さい頃に悪いことをすると悪魔がやってきて呪われると親に叱られるそうだ。
たちが悪いのは本当に呪い自体は存在するから信憑性が高くなってしまうということであろう。
ちなみにルイーズさんは前に呪物を見たことがあるようで、そのときにはさっぱりなにも分からなかったのだとか。
それが呪物かどうかさえも分からなかったため、今のところ諦めているのだそう。
ちなみに実際に使ってみて確かめるということもできたが、さすがにそれはしなかったらしい。
なんかあったら嫌だし、そこまでして呪いの研究をしたいとは思わなかったようだ。
そんなこんなで呪物の保管庫の前までやってきた。
宰相からもらった鍵を使って入室する。
「アンナはここで待ってていいよ」
「シャルルさまぁ、そんな平然と…。もぅ、私も入りますよぉぉ」
なんだかんだついてくるアンナが可愛い。
こんな健気な献身におじさん心は擽られるのだ。※前世との年齢を足すとアラフォーです。
「アンナ、いつもごめんね。でもありがとう」
「うぅ…そんなふうに言われると余計断れなくなるじゃないですかぁ」
少し良い気分になったところで保管されている呪物達を見渡す。
ぱっと見て多いのは絵画、人形、本、剣や武具だ。
それらが呪物だということはすぐに分かった。
呪物には魔素が込められていたからだ。
中には魔素を纏っていないものもあり、おそらく間違って持ち込まれたものだろう。
とりあえず壁に掛けてある絵画から調べて見ることにした。
薄っすらと魔素を帯びている。
魔素の量からしてもそれほど強い呪いではないだろうと予想する。
貴族の男性の絵だろうか。
高貴な服を着て、自然体でありつつもどこかポーズをとっているようにも見える風格のある端正な顔立ちの男性の絵だ。
つまりはイケオジだ。
絵画には魔素で文字が書かれていた。
『くたばれ、死ね、浮気女と共に地獄に堕ちろ、強盗に襲われろ、階段から落ちて骨折しろ、ハゲろ、太れ、全部虫歯になれ、肌がガサガサになれ、異常者にストーカーされろ、性病になれ、歯周病になれ、家族に嫌われろ、親から絶縁されろ、不祥事に巻き込まれろ、犬に噛まれろ、馬に蹴られろ、歯が全部抜けろ、口臭がドブの臭いになれ、全部の爪が水虫菌に汚染されろ…』
「・・・・・・・・・」
魔素の濃度や量からして呪いとしては大したことはなさそうだが、妻であったであろう女性からの相当な怨念がこめられた呪いだった。
なるほど、シンプルな呪いだ。
この持ち主は30代から老化が始まる呪いにかかったと記されている。
シワが増え、薄毛になり白髪になり、歯が抜け出し短命で亡くなった。
夜にはこの絵画から不気味な声が聞こえたのだとか。
うーむ。
呪いかこれ?
被害者も一人みたいだしな。
野菜は食べずに毎日甘いものを寝る前に食べさせて、酒でも飲ませて歯磨きさせずに寝かせればこんな感じになりそうだが…
呪いの効果はともかくして、魔素で文字を刻み込めば物品に魔素を刻み込むことができるようだ。
ふむふむ、意外と簡単。
最もイメージしやすい呪いの方法かもしれないな。
周りを見渡すとほとんどの物品は同じくらいの魔素の量や濃度であり、呪いの効果としてはそれほど高くないと思われる。
次に高級そうな黒い刀を見てみる。
こちらは割と魔素が多く込められており、同じように文字が刻まれている。
『ᚼᛇҋ Ѯѧꚤ ϨⲙႧ᛭, ዑኸႧ ϪᚿⳃҔ҂ Ѯѩ. ʡϗ Ⴇᛇ Ꝟϡ, Ⴇ℥҂ ጤҼⲙ Ѯѩ. ϞҎ ѧჲⲙ, ϗዑʬϡ ꝞϪⲙ』
・・・わかんねぇー。
見たこともない文字で、どんな内容なのかも全く分からない。
記述によると、この剣の使用者は明らかな戦闘能力の向上が得られる代わりに、寿命(生気)を吸い取られるとのこと。
歴代いずれの使用者もかなり短命となったとのこと。
いわゆる魔剣だな。
これ誰が呪いをこめたんだろ?
古代文字なの?古代人なの?
謎が多いアイテムだし、これは今後の課題だなぁ。
諦めて次のアイテムを見てみる。
小さな宝石が散りばめられた高級感のある金色のバングルブレスレット。
これが最も魔素を多く纏っているアイテムだった。
同じように文字が刻まれている。
『運 −30%』と刻まれている。
なんかRPGに出てくる呪われたアクセサリーみたいだ。
ただ違和感がある。
『運 −30%』という文字が切れているし、他の部分にも文字が刻まれていて、筒状のパズルのようになっている。
筒状のパズルのようになっている魔素を動かしてみると、本当にパズルのようにズレた。
ガチャガチャと音は鳴らないが動かしてみる。
「シャルル様?何をされているんですか?」
魔素が見えていない人には何をしているのか全く分からないだろう。
アンナを無視して作業を継続する。
動かしていくと再度『運』という文字が出来上がり最終的に『運+25%』に組み替えることができた。
これは呪いじゃなくて付与だな。
運ってなにを付与するんだ?
でも面白いかも。
これは呪物でもないし、『運+25%』にしておけばマイナス効果もなさそうなので、装着して試してみることにした。
「ッ!?シャルル様?!いけません!呪物ですよ!!」
「んー?大丈夫だよ。たぶん」
「大丈夫じゃありません!もし何かあったらどうするんですか!!」
「じゃぁアンナが代わりにつけてみてよ」
「いやです」
「ぇー…」
珍しくアンナに拒否された。
地味にショック。
普段はなんでも受け入れてくれることが多いアンナなだけに。
その優しさに甘えてた部分も大きいんだろなぁ。
「身を挺してシャルル様を守ることは喜んでいたしますが、、、呪いは、嫌!です」
アンナにも譲れない一線があるみたいだ。
「とにかくこれは大丈夫そうだし、呪物の確認もしたいからこれはつけておくよ」
アンナは諦めの境地で、ジト目になっていた。
・・しばらくは呪物調査で保管庫に出入りしてみようかな。
こうして呪物調査1回目は終了となった。