息は乱れない。
刃を返し、首を落とす。
魔物は倒れ、雪に沈む。
それで終わり。
血を拭い、周囲を確認する。
次の気配はない。
火を起こす場所を選ぶ。風向きだけを見る。
生きることは、難しくない。
手順を外さなければ。
肉を焼き、必要な分だけ口に入れる。
残りは凍らせる。
夜は短く、眠りは浅い。
一人でいることに、不都合はない。
私はそう作られている。
剣の重さ、距離、角度。
考える前に体が動く。
余計な動作は削った。
それでも、ときどき――
白い息の向こうに、声が浮かぶ。
「取り戻す」
そう言った彼の顔。
怒りでも、憎しみでもない。
ただ、前を見る目。
雪原で、言葉を選ばずに話した姿。
小人族の前で、退かなかった背中。
思い出しても、胸は騒がない。
ただ、空白が一つ増える。
生存は成立している。
危険も管理できる。
それなのに、何かが足りない。
火が小さくなったので、薪を足す。
炎は応える。
それだけだ。
空を見上げる。
星は、変わらない。
変わらないことは、楽だ。
選ばなくていい。
迷わなくていい。
……それでも。
もし彼がここにいたら。

