NanatoMutsuki
welcome to my room
Reスタートはカースト最上位から(仮)

第4話 刻まれたもの

剣が振り下ろされる前に、体はもう踏み込んでいた。
雪を蹴り、懐に入り、喉を断つ。

魔物は声を上げる暇もなく倒れた。

血が雪に染みる。
俺はそれを見て、何も思わない。

刃についた肉を払い、次の気配を探す。
――いない。
それで終わりだ。

(昔なら、震えていたな)

ほんの一瞬、そんな記憶がよぎる。
剣を握る手が重くて、息が荒くて、勝てたことに安堵していた頃。

今は違う。

倒れた魔物を引きずり、風を避けられる岩陰へ運ぶ。
皮を剥ぎ、火を起こす。
指は勝手に動く。順番を考えたことはない。

肉を焼き、食べる。
硬い。
だが、温かい。

寒さは敵だ。
火と脂があれば、夜は越えられる。

それが、この土地の常識になった。

雪が緩む日があった。
足元が泥に変わり、魔物の匂いが濃くなる。

次に気づいたとき、白は消え、地面に短い草が顔を出していた。
空気が軽い。

また白に戻る。
吹雪が、視界を奪う。

季節は、そんなふうに断片で通り過ぎた。
数える理由はない。
数えたところで、何も変わらない。

今日も、魔物を倒した。
今日も、食べた。
今日も、生きた。

剣を拭っていると、背後で雪が鳴った。

振り向く前に、体が半身になる。
――そこに、いた。

小柄な影。
何人も。

小人族だ。

「……そうか」

それだけが、口から出た。
驚きはない。敵意もない。

老いた小人が一歩前に出る。

「一年だ」

短い言葉。
俺は、ただ頷いた。

一年。
そうか、とだけ思う。

長いとも、短いとも感じない。

老は俺を見上げ、しばらく黙っていた。
視線が、剣に落ち、手に落ち、立ち方に落ちる。

「まだ、力は語れぬ」

そう言って、踵を返す。

去り際、ひとことだけ残した。

「――生き方は、見えた」

雪の中に、彼らの影は溶けていった。