剣が振り下ろされる前に、体はもう踏み込んでいた。
雪を蹴り、懐に入り、喉を断つ。
魔物は声を上げる暇もなく倒れた。
血が雪に染みる。
俺はそれを見て、何も思わない。
刃についた肉を払い、次の気配を探す。
――いない。
それで終わりだ。
(昔なら、震えていたな)
ほんの一瞬、そんな記憶がよぎる。
剣を握る手が重くて、息が荒くて、勝てたことに安堵していた頃。
今は違う。
倒れた魔物を引きずり、風を避けられる岩陰へ運ぶ。
皮を剥ぎ、火を起こす。
指は勝手に動く。順番を考えたことはない。
肉を焼き、食べる。
硬い。
だが、温かい。
寒さは敵だ。
火と脂があれば、夜は越えられる。
それが、この土地の常識になった。
雪が緩む日があった。
足元が泥に変わり、魔物の匂いが濃くなる。
次に気づいたとき、白は消え、地面に短い草が顔を出していた。
空気が軽い。
また白に戻る。
吹雪が、視界を奪う。
季節は、そんなふうに断片で通り過ぎた。
数える理由はない。
数えたところで、何も変わらない。
今日も、魔物を倒した。
今日も、食べた。
今日も、生きた。
剣を拭っていると、背後で雪が鳴った。
振り向く前に、体が半身になる。
――そこに、いた。
小柄な影。
何人も。
小人族だ。
「……そうか」
それだけが、口から出た。
驚きはない。敵意もない。
老いた小人が一歩前に出る。
「一年だ」
短い言葉。
俺は、ただ頷いた。
一年。
そうか、とだけ思う。
長いとも、短いとも感じない。
老は俺を見上げ、しばらく黙っていた。
視線が、剣に落ち、手に落ち、立ち方に落ちる。
「まだ、力は語れぬ」
そう言って、踵を返す。
去り際、ひとことだけ残した。
「――生き方は、見えた」
雪の中に、彼らの影は溶けていった。

