雪の中から現れた小人族は、思っていたよりも小さかった。
俺の腰にも届かない背丈。肩幅も狭い。
――なのに。
(……重い)
空気が違う。
同じ世界に立っているはずなのに、密度が違う。
剣を抜けば勝てるかどうか、そんな次元の話ではなかった。
「殿下、下がれ」
レオンが低く言い、半歩前に出る。
剣には手をかけていないが、全身が警戒の塊だった。
フィアは逆に、動かない。
雪の影に溶けるように立ち、小人族一人ひとりの動きを静かに追っている。
小人族の中から、一人が前に出た。
白髭を胸まで垂らした老体。だが、その歩みは迷いがない。
「人の王子よ」
短い呼びかけ。
それだけで、俺が名乗る必要はないと悟らされた。
「何を求め、ここへ来た」
試すような視線。
俺は、喉の奥に溜まった冷気を吐き出す。
「……王国を、取り戻したい」
即答だった。
用意していた言葉じゃない。だから、飾りもない。
「帝国に奪われたからか」
「違う」
レオンが僅かに目を見開く。
フィアの視線が、俺に向いた。
「奪われたことより――守れなかったことの方が、重い」
吹雪の音が、一瞬だけ遠のいた気がした。
「家族も、従者も……俺を信じてくれた人たちを、俺は見捨てたわけじゃない。でも、守れなかった」
拳を握る。
悔しさは、今も胸の奥で凍りついている。
「だから、もう一度立ちたい。
あの場所に戻って、『今度は守る』って言える自分になるために」
復讐、と言えば楽だった。
怒りに任せれば、きっと楽になれた。
でも、それじゃ足りない。
「憎しみで強くなっても、同じことを繰り返すだけだ」
小人族の老が、俺を見つめる。
その目は、鋼のように静かだった。
「力を持てば、世界は従うと思うか」
「思わない」
「なら、なぜ強さを欲する」
少しだけ、考えた。
「……弱いままじゃ、選べないからだ」
守るか、逃げるか。
誰を助け、誰を諦めるか。
弱い者には、選択肢すら与えられない。
レオンが、低く息を吐いた。
警戒は解いていない。それでも、俺の言葉を否定しなかった。
フィアは相変わらず無表情だったが、視線の鋭さが増している。
――値踏みしている。そう感じた。
小人族の老は、ゆっくりと背を向けた。
「我らは、世界最強と呼ばれる」
その声には、誇りも驕りもない。
「だが、力は使わぬ。使えば、いずれ力で滅ぶ」
振り返り、俺を見る。
「王国は、かつて我らを守った。
ゆえに、お前を探していた」
レオンの肩が、僅かに強張る。
フィアは、何も言わない。ただ聞いている。
「だが――」
老は、短く告げた。
「力は貸せぬ。だが――」
その先は、雪と闇に飲み込まれた。

