NanatoMutsuki
welcome to my room
実力主義の帝国に王国を乗っ取られたので最強になって取り返します

第2話 力を使わない者

雪の中から現れた小人族は、思っていたよりも小さかった。
俺の腰にも届かない背丈。肩幅も狭い。
――なのに。

(……重い)

空気が違う。
同じ世界に立っているはずなのに、密度が違う。
剣を抜けば勝てるかどうか、そんな次元の話ではなかった。

「殿下、下がれ」

レオンが低く言い、半歩前に出る。
剣には手をかけていないが、全身が警戒の塊だった。

フィアは逆に、動かない。
雪の影に溶けるように立ち、小人族一人ひとりの動きを静かに追っている。

小人族の中から、一人が前に出た。
白髭を胸まで垂らした老体。だが、その歩みは迷いがない。

「人の王子よ」

短い呼びかけ。
それだけで、俺が名乗る必要はないと悟らされた。

「何を求め、ここへ来た」

試すような視線。
俺は、喉の奥に溜まった冷気を吐き出す。

「……王国を、取り戻したい」

即答だった。
用意していた言葉じゃない。だから、飾りもない。

「帝国に奪われたからか」

「違う」

レオンが僅かに目を見開く。
フィアの視線が、俺に向いた。

「奪われたことより――守れなかったことの方が、重い」

吹雪の音が、一瞬だけ遠のいた気がした。

「家族も、従者も……俺を信じてくれた人たちを、俺は見捨てたわけじゃない。でも、守れなかった」

拳を握る。
悔しさは、今も胸の奥で凍りついている。

「だから、もう一度立ちたい。
あの場所に戻って、『今度は守る』って言える自分になるために」

復讐、と言えば楽だった。
怒りに任せれば、きっと楽になれた。

でも、それじゃ足りない。

「憎しみで強くなっても、同じことを繰り返すだけだ」

小人族の老が、俺を見つめる。
その目は、鋼のように静かだった。

「力を持てば、世界は従うと思うか」

「思わない」

「なら、なぜ強さを欲する」

少しだけ、考えた。

「……弱いままじゃ、選べないからだ」

守るか、逃げるか。
誰を助け、誰を諦めるか。

弱い者には、選択肢すら与えられない。

レオンが、低く息を吐いた。
警戒は解いていない。それでも、俺の言葉を否定しなかった。

フィアは相変わらず無表情だったが、視線の鋭さが増している。
――値踏みしている。そう感じた。

小人族の老は、ゆっくりと背を向けた。

「我らは、世界最強と呼ばれる」

その声には、誇りも驕りもない。

「だが、力は使わぬ。使えば、いずれ力で滅ぶ」

振り返り、俺を見る。

「王国は、かつて我らを守った。
ゆえに、お前を探していた」

レオンの肩が、僅かに強張る。
フィアは、何も言わない。ただ聞いている。

「だが――」

老は、短く告げた。

「力は貸せぬ。だが――」

その先は、雪と闇に飲み込まれた。