NanatoMutsuki
welcome to my room
実力主義の帝国に王国を乗っ取られたので最強になって取り返します

第1話 失ったものの重さ

王国は、奪われた。
守ると誓った家族も、笑って名を呼んでくれた従者も、すべて。
――俺は、愛をくれた人たちを守れなかった。

「……殿下、立てますか」

吹雪の向こうから聞こえた低い声に、俺は膝に突いた手に力を込めた。
足先の感覚はとうにない。北方領土は、噂以上に容赦がなかった。

「大丈夫だ、レオン。歩ける」

嘘だ。
一歩踏み出すたび、肺の奥が凍るように痛む。それでも止まれない。

背後で、軽い足音が雪を踏んだ。

「はいはい、無理は禁物ですよ、殿下。凍死って、意外とあっさりですから」

明るい調子で言いながら、フィアは俺の外套を引き寄せ、隙間を手早く締め直した。
その指先は冷たい。でも、動きに迷いはない。

「敵の追撃は?」とレオンが問う。

「今のところは。帝国兵も、この吹雪で深追いはしないでしょう」

そう言って、彼女は笑った。
――仮面みたいな笑顔だ、と俺は思う。温度がない。

「……殿下」

レオンが前に立ち、剣を杖代わりに雪を踏み固める。

「ここから先は、帝国よりも現実が敵になります。食糧は三日分。判断を誤れば、生き残れません」

冷酷なまでに正確な言葉。
でも、その背中は俺をかばう位置から一歩もずれない。

(この人も、失ったんだ)

家族を守れず、それでも俺を選んだ騎士。
俺が生きている限り、その選択は続く。

「分かってる。だから……強くなる。取り戻すために」

復讐じゃない。
奪われたものを、もう一度この手に戻すために。

フィアが一瞬だけ、目を伏せた気がした。

「殿下は、不思議ですね」

「何がだ?」

「こんな状況でも、誰かを憎むより、先の話をするところです」

彼女はそう言って、また明るく笑う。
でも、その視線は、さっきよりも長く俺を見ていた。

――そのときだ。

雪原の先、白一色の中に、不自然な影が動いた。

「止まれ」

レオンが即座に腕を伸ばし、俺を制した。
影は低い。人間より、ずっと。

「……小人族?」フィアが声を潜める。

俺も息を呑んだ。
北方に住む、鍛冶と取引の民。だが、閉鎖的で、人を選ぶと聞く。

影は三つ。
槍のようなものを持ち、無言で距離を詰めてくる。

「殿下、下がってください」
「交渉は私が――」

「いや、俺が前に出る」

二人の視線が重なる。
それでも、俺は一歩前に出た。

小人族の一人が、俺の足元を見て、鼻を鳴らした。

「……王子か」

低く、ざらついた声。

「この土地で生きたいなら――」

彼は、にやりと笑った。

「差し出せ。
命か、未来か……それとも、誇りか?」

吹雪が、さらに強くなった。