NanatoMutsuki
welcome to my room
Reスタートはカースト最上位から(仮)

第7話 闇と並ぶ

雪は、もう敵ではなかった。
踏みしめた音が、静かに返ってくる。

小人族の集落の前に立ったとき、俺は息を整えもしなかった。
一年。そう呼ばれた時間を、体が覚えている。

「……久しいな」

低い声。
長が前に出る。

振り返らなくても分かる。
背後に、二つの気配。

レオンは半歩後ろ、剣に近い位置。
視線は集落全体を走査している。警戒の形が、そのまま立ち姿になっていた。

フィアは、少し離れた影の中。
こちらも小人族も等しく見ている。立ち位置に、感情はない。

「一年、だったな」

長が言う。
俺は頷いた。

「我らは見ていた。
生き延び方も、斬り方も、立ち方も」

言葉は少ない。
評価も、ない。

「――話そう。闇因子のことだ」

空気が、わずかに沈む。

「光因子は、満ちる力だ。
集め、増やし、外へ放つ」

短い説明。
だが、重い。

「闇因子は、逆だ。
欠け、沈み、内へ向かう」

長の視線が、俺の胸元に落ちる。

「闇を力に変えようとした者は多い。
過去、我らの中にもいた」

一拍。

「耐えられなかった。
飲み込まれ、残ったのは力だけだ」

レオンの指が、僅かに動いた。
止める言葉を探している。

フィアは、動かない。

「それでも――」

俺は、一歩前に出た。

「それでも、使いたい」

長が、俺を見る。

「理由を言え」

復讐、という言葉は浮かばない。
もう、そこにはない。

「奪われたからじゃない」

喉の奥が、少しだけ熱くなる。

「守れなかった。
それを、なかったことにできない」

一年の雪。
血の味。
名前を呼ぶ声。

「忘れたくない。
消したくない」

だから。

「闇が、そこにあるなら――
俺は、それと一緒に進む」

長は、しばらく黙っていた。
やがて、石の器を差し出す。

中は、暗い。
光を吸うような、何か。

「触れよ」

指先が、沈む。

――冷たい。

次の瞬間、視界が揺れた。

燃える城。
泣く声。
逃げる背中。

レオンの剣。
フィアの無表情。

俺自身の、動けなかった時間。

逃げたい、と思う。
だが、手を引かない。

(ああ……)

後悔は、消えない。
でも、拒まない。

胸の奥で、何かが静かに灯る。
熱でも、光でもない。

ただ、そこに在る。

器から手を離す。
何も起きない。

だが――
何も、同じではない。

長が、短く告げた。

「完全ではない。だが、道は示した」

俺は、深く息を吸った。

闇は、まだ闇のままだ。
それでも、歩ける気がした。